西裏で育んだ、人々とのご縁いつまでも残したい文化 西裏で育んだ、人々とのご縁いつまでも残したい文化

西裏で育んだ、人々とのご縁

いつまでも残したい文化

ぎおん

スナック

西裏の歴史を知る昭和レトロなバー「ぎおん」。
美人ママが抱く感謝と恩返しの心

ノスタルジックな提灯が並ぶ「子の神通り」。その一角に、富士吉田なのに「ぎおん」の看板を掲げるちょっと不思議なバーを発見しました。

重厚なドアの向こうから響いてくるのは、賑やかなカラオケの音と、おそらくママと思われる女性の快活な声。少し入りづらい、だけど興味深い……。好奇心に従い、ドアを開いてみると、バーカウンターの向こうから元気で明るい美人ママ・藤本寿美子さん(通称:スミちゃん)が温かく迎えてくれました。

藤本寿美子

藤本寿美子

ぎおん | スナック

50年以上も西裏に根を張る昭和レトロなバー「ぎおん」。

道ゆく人たちが必ず気になるようなインパクトのある看板ですよね!こうして中に入ってみると、「昭和の時代ってこんな感じだったのかな!」とノスタルジーを感じさせる素敵なお店ですね!

ありがとうございます。この「ぎおん」というお店は、もともと私の母が昭和44年に始めたお店なのでもう50数年になりますね。私たちは福岡県から富士吉田市に引越してきたのですが、その時の私はまだ中学3年生でした。当時のこのあたりはいつも人がごった返していて、まるで渋谷のスクランブル交差点みたいに本当にすごかったんですよ。

富士吉田市には、織物産業を中心としたバブル時代があったと、様々な方からうかがいました。

そうそう、ガチャマン時代ってやつね。昔の西裏の雰囲気は、というと、『ALWAYS 三丁目の夕日』」って映画があるでしょ? 本当にあんな感じでした。西裏の飲食店がみんなで連帯して地域を守っていて、何かトラブルがあれば自分たちで解決していたし、困ったときはお互い様。「助け合いの精神」みたいなものがあってね。こっちの店が暇になればみんなが飲みに来てくれるし、あっちの店が暇になったらみんなで飲みに行く。そうやって支え合っていたんです。

なるほど、そんな良い時代の空気が今もこのお店には残っているように感じます。普段どんな方々がこのお店にやってくるのでしょう?

みなさん、気持ちのいい方々ばかりです。ここに来てくれるお客さんは年配の方が多くて、大体65歳から75歳くらいかな?母の時代からの常連さんで、私が引き継いでからもお店に来てくださる方もいます。また、ひとりで来られるお客さまが多いですけど、店内の雰囲気は和気あいあいとしていて、アットホームな感じです。私がひとりで忙しくしていても、お客さま同士で話していたり、お店の雰囲気を作ってくださっているように感じます。長くやってきた中で、自然にこのお店に馴染んでもらえるお客さんが集まってきたのかなと、思います。そして、そんな皆さんのおかげで、今も「ぎおん」の看板を掲げてられていることにとても感謝しています。

いわゆる一見さんや観光客でも、楽しく飲むことはできそうですか?

私が話好きなこともあって、お客さんにはどんどん話しかけています。自他共に認めるマシンガントークだと思いますよ(笑)。もちろん静かに飲みたい方もいるので、お客さんの雰囲気を尊重して接客していますが、それでも結局私から色々話しかけてしまうことが多いですね(笑)あとは、誰かしらがカラオケで歌っていて、全体的に賑やかな雰囲気です。

感謝と恩返しの心で「ぎおん」のネオンは灯る

コロナ禍以降、特に夜のお店は大変だと聞いていますが、こうして営業を続けるモチベーションはどこから来ているのでしょう?

売上の面でもそうだけど、コロナ禍でお店を閉めて人と喋らない時間が続くと、精神的にすごくストレスが溜まっちゃう人が多いんじゃないかな、私がそうでした。
コロナ禍で、サントリーが「人生には、飲食店がいる」っていう広告を出したことがあったの。そこには「居酒屋の、バーの、レストランの、あの灯りが私たちには必要だと思う」って書かれていて、それをみた瞬間、すごく感動して。やっぱりみんなで一緒にお酒を飲んで、お話する場所は絶対に必要だと、改めて思うことができて、「自分もやれるところまで頑張らないと」って勇気づけられました。

たしかに、コロナ禍以前はあまり意識していませんでしたが、飲食店はコミュニケーションの場としてとても大事な場所なのだと痛感しています。

わたしは、飲食店って、人と話をすることで、心が軽くなる場所なんだって信じています。仕事で疲れたり落ち込んだり、プライベートで思い悩んでいる時にも、お酒を交わしながら人と話をして、そこでワンクッション気持ちを軽くしてから家や家庭に帰るって、すごく健全だと思います。もちろん毎日通うことがよい、ということではないけれど 笑

ここにはスミちゃんもいますし、気のいい常連さんもいますからね。とりあえず、誰かと話したくなったら「ぎおん」に来れば明るい気持ちになれそうです。

はい、いつでもおでかけください。
西裏は母をはじめ、わたしたちを受け入れ、そして、育ててくれた場所です。今の「ぎおん」があるのも、すべてはお客さまと地域の皆さんのおかげです。私もこの「ぎおん」を通して、できるかぎり、みなさんのお役に立ちたい、と思っています。

「感謝」の反対語って、「当たり前」だって聞いたことがあります。自分が置かれた環境が当たり前になっちゃうと、感謝の気持ちを忘れちゃうでしょう。だから私も、お店が営業できていることを当たり前だとは思わないようにしています。いつも感謝の気持ちを持ちながら、コツコツとめげずに頑張っていきたいです。

バブル時代の西裏で誕生した昭和レトロなバー「ぎおん」。西裏を訪れた暁には、当時の西裏を知るスミちゃんのお話は、ぜひ聞いておきたいところ。人恋しくなったら、「ぎおん」のネオンに誘われてみてはいかがでしょう? エネルギッシュなスミちゃんが、軽快なマシンガントークで迎えてくれるはずです。