音楽の力で地域と人をつなげる昭和ロマンあふれるフォーク酒場 音楽の力で地域と人をつなげる昭和ロマンあふれるフォーク酒場

音楽の力で地域と人をつなげる

昭和ロマンあふれるフォーク酒場

ジュゲム

フォーク酒場

学生時代から様々な形で関ってきた音楽と西裏。
思い入れのある場所で大好きな音楽を切り口としたまちづくりを牽引するオーナー。

西裏通りからミリオン通りに入ってすぐの場所にあるのが、市内唯一のライブハウス、フォーク酒場 ジュゲムです。夜な夜なギター愛好家が集うこちらのお店では、地域を音楽で盛り上げようと結成された富士五湖アコースティックギタークラブの定期演奏会や、特定のアーティストの曲を歌うコンサートのほか、オープンマイクの日を設けるなど、日々バラエティに富んだ音楽イベントが開催されています。オーナーは、同クラブの顧問や市議会議員など、多彩な顔を持つ伊藤進さん。今回は、音楽を通じた地域との関わり方や、多角的な視点から考える西裏の魅力と課題についてお話を伺いました。

伊藤 進

伊藤 進

ジュゲム | フォーク酒場

アマチュアからプロまで垣根なく集う、
ギター愛好家のホットスポット。

ジュゲムさんは市内唯一のライブハウスと伺っています。まずは開業に至るまでの経緯についてお聞かせいただけますでしょうか?

学生時代からずっとギターを弾いていて、そのうち作曲もするようになりました。上京してからはプロを目指して音楽活動を続けていたのですが、紆余曲折あって地元に帰ることを決めたのが20代前半の頃です。地元で働きながら家庭を持つことができましたけれども、そういう夢や志をなかなか諦めきれず、月に1回程度、東京のライブハウスまで歌いに行っていました。

そんな毎日を送るなか、40代後半の頃にふと、「そういえば、自分の地元にはライブハウスがないな」と思い立ち、ちょっとしたライブができるように、自宅を改装したことがジュゲムのルーツです。

サラリーマンとして働く傍ら、週末はお店を開き、東京や地元のミュージシャンを呼んで、音楽活動の場を提供しているうちに、徐々に地域のギター好きが集まるようになってきました。そこで当時よく集まっていた10名程のメンバーで発足したのが、富士五湖アコースティックギタークラブです。地域で生まれ育ったメンバーばかりなので、当時も西裏でよく遊んでいましたけれども、段々と廃れていく街並みに寂しさを感じていた折、メンバーの一人が店舗移転の話をもらったことをきっかけに、今の場所で営業を始めることになりました。

当時は東日本大震災の影響で電気も止まっていましたが、何とか今の形でオープンできたのは、メンバーの協力があったおかげです。そこからはクラブの定期演奏会はもちろんのこと、アーティストを限定したライブイベントや、誰でも歌えるオープンマイク日など、ここで色々な音楽の催しを行うようになりました。ここ最近では、『ユーミンナイト』という企画が人気で、すごく人が集まりますよ。

発足から10年以上が経過した現在では、100名以上のメンバーがクラブに在籍している

音楽を通じて、人と人がつながっていく姿を見るのが微笑ましい。

開業には、富士五湖アコースティックギタークラブさんが深く関わっていたのですね!クラブでは、定期演奏会のほかにどのような活動をされているのですか?

音楽で地域を盛り上げることが目的のクラブであり、次世代の子どもたちにギターを教えたいという想いもあります。教育委員会のジュニアカレッジにて、毎年、クラブの主催で行っている、小中学生を対象とした無料のギター教室もその一環です。

期間は半年、月1回のペースで開講し、その成果として『富士吉田市生涯学習フェスタ』という場で弾き語りを発表してもらっています。大人向けに月2回のギター教室も行っていて、75歳以上の方がほとんどですが、みなさん段々と上達していますよ。

そのなかの一人がリーダーを務める富士山と踊り隊ともコラボレーションをしていて、市制祭など地域のイベントで歌や踊りを披露することもあります。あとは、どうしても公務を優先しなければならないときには、お店のサポートでメンバーに手伝ってもらうことも。

私も諦めないでずっと続けられた唯一のことが、ギターの弾き語りでした。音楽活動のおかげで、クラブのメンバーを始めとする人のつながりが生まれましたので、老若男女を問わず、ジュゲムがハブとなり、音楽の力でみんながつながっていく光景を見られて本当に微笑ましいし、やって良かったなと思う瞬間ですね。

 

地域にゆかりのある凄腕パティシエ直伝の『クロックムッシュ』は、ジュゲムさんで人気のフードメニュー

西裏地域の再活性化を目指す活動で、世代を問わずに人の輪が広がるように。

昼は公務、夜は店舗の営業と、なかなかハードワークですね…。音楽に関連するもの以外でも、これまで多くの地域イベントを主催されてきたと伺っていますが、きっかけは何だったのでしょうか?

ライブイベントを企画するのは30年以上前から行っていましたが、音楽に関係なく、初めて関わった地域のイベントは、『西裏合コンフェスティバル』でした。いわゆる街コンですね。

当初はサラリーマンと併行してお店を営業していて、2011年に初めて選挙に挑戦することになりました。最初は上手くいかなかったんですけれども、それでも昼間に時間ができましたので、色々と勉強してみようと思い、毎日図書館へ通うように。

そこでさまざまな新聞を読んでいるときに、たまたま目に入ったのが、宇都宮市で開催されていた街コンです。「まさに西裏にピッタリでは」と思い立ち、西裏の知り合いみんなに声を掛けました。第1回目はジュゲムを含めた計3店舗で開催したのですが、予想以上の反響もあって、その後は段々と参画する店舗も増えていき、結果的に賑やかなイベントになりましたよ。

地域の一体感も高まった素敵なイベントだったのですね!次第に参画する店舗も増えていったとのことですが、参加者の方からの評判はいかがでしたか?

計12回の開催、最大で10店舗が参画し、550名が参加する大盛況のイベントとなりましたが、やはり難しいもので、段々と飽きてくるのでしょうね。当初は継続的に年3、4回のペースで開催していましたけれども、徐々に回数が減り、コロナの影響でやらなくなってしまいました。

それでも未だに「次はいつやってくれますか」という問い合わせがあり、街コンで出会って結婚したカップルも何組か居ると聞いていますので、やった価値はあるのかなと思っています。

豊後高田市の事例に影響を受けて始めた『西裏昭和祭り』、色々と地域に貢献していただいたパティシエの方の出身地に由来する『西裏さんま祭り』など、街コンの後に企画したイベントには、現在も継続して開催することができているものもありますよ。

音楽を通じた地域活性化の取り組みについてもそうですが、やっぱりみんなが楽しく会話をしたり、食事をしたりできるコミュニケーションの場は大切かなと思います。

4月29日(昭和の日)には『西裏昭和祭り』、秋には『西裏さんま祭り』が開催されている

魅力と課題は表裏一体。地域住民も観光客も心安らげる場を提供したい。

参考例があるとはいえ、市外から吸収したエッセンスをそのまま西裏で再現するのは容易ではないと思いますが、さまざまな活動を通して新たに気づいたことはありましたか?

『西裏みんなの食堂』という活動を5年程前に始めたのですが、地域にはさまざまな魅力がある一方で、幅広い課題やそれに伴う需要があるものだなと感じています。

ニュースで見た全国的な子ども食堂の動きが活動を始めたきっかけですが、お子様に限定せず、西裏みんなの食堂にしようというのが私たちのコンセプトです。とはいえ、実際に始めてみると、想定していたよりもファミリーやお子様のご利用が多くありませんでした。

実は、西裏がある下吉田地区は、60%と市内で最も高齢化率が高いエリアです。一人暮らしをされている高齢者の方も多いので、みなさん月に1回の開催を楽しみにしてくださっています。

看板を出していると、ときには観光で西裏にいらしたファミリーにご利用いただくこともあって、お子様は無料、高校生以上はワンコインなので、すごく喜んでいただけますね。

和やかでフレンドリーなお客様が多いので、話も弾みますし、いつもほのぼのとした雰囲気に包まれています。

バイキング形式で10品目程のメニューを味わえる『西裏みんなの食堂』

過去・現在・未来を感じられる地域になってほしい。

学生時代から足を運んでいた伊藤さんから見て、今の西裏に何か思うところはありますか?西裏に関する思い出話などもありましたら、ぜひお聞かせいただきたいです!

高校生の頃は、友人や彼女とよく西裏で遊んでいましたので、昔から思い入れのある場所です。今も懇意にしているNOWさんというお店で定例的にライブもやっていたのですが、ジャズ喫茶なのにフォークソングを歌わせてくれた先代のマスターには感謝しています(笑)。

どうしても過去の話になってしまいますが、当時は映画館や喫茶店もたくさんあって、本当に文化の発信地のような場所でした。

昭和40年代に出た日経新聞の記事によると、人口の割に繁華街が多いということで、全国でも5指に入る地域だったとか。映画スターの芸能人や、わざわざ県外から飲みに来る方もたくさん居たそうですよ。

今となっては空き地ばかりになってしまいましたので、“温故知新”ではありませんが、今後はそういう古き良きテイストを大切にしながら、過去と現在、未来を一度に感じられる場所になったら良いなと思いますね。

話には聞きますが、当時の盛況ぶりは凄まじかったみたいですね…!再活性化にあたり、現在の西裏が抱える課題点についてはどのようにお考えですか?さまざまな立場でご活躍されている伊藤さんのご意見をお伺いさせていただきたいです。

基本的には行政と民間が連携して大々的に行わなければなりませんが、たとえば、昭和レトロをテーマにしたものや、ミニシアター、舞台など、何か地域の拠点となるような施設があったら良いなと思います。

そこを基点にゲストハウスやサテライトオフィスといったハード面の整備や、インバウンドの方にも対応できるよう、屋外のWi-Fi環境も充実させることができれば理想的ですよね。

また、現状の二次交通を否定するわけではありませんが、将来的には自動運転のサービスが普及するようになると思います。こういったMaasを活用したオンデマンド交通が発達すれば、観光客の方はもちろんのこと、近隣の市町村から西裏に足を運ぶ地域住民の方にとっても、この上ない環境ではないでしょうか。

観光や飲食といった側面だけではなく、移動手段にお困りの高齢者の方もたくさんいらっしゃいますので、さまざまな地域課題を解決する糸口になると思います。

もし地域にオンデマンド交通が整備されたら、より便利に観光や飲食を楽しめそうですね!最後になりますが、初めて西裏に訪れる方に向けて、おすすめ店のご紹介や回遊時のアドバイスをお願いします!

さまざまなお店がありますので一概には言えませんが、音楽をテーマにした西裏巡りということであれば、先程お話したNOWさんと当店をハシゴするのがおすすめのコースです。特にテイクアウトも可能なNOWさんのピザは絶品なので、ぜひ一度ご賞味ください。まずは現地に訪れて、西裏の持つさまざまな魅力を肌で感じてもらえたら嬉しいです。

音楽で地域を盛り上げるために結成された富士五湖アコースティックギタークラブのメンバーを中心に、地域のギター愛好家たちの憩い場となっているフォーク酒場 ジュゲム。複数の立場や切り口から、西裏地域の活性化に取り組まれている伊藤さんの心穏やかなお人柄が反映されたかのような、昭和ロマンと人の温もりを感じる素敵なお店でした。どなたでもステージで歌えるオープンマイクの日には、伊藤さんがギターの生演奏でサポートしてくださるそうなので、ぜひ一度遊びに行ってみてください。

ーフォーク酒場 ジュゲムー

Access
住所:富士吉田市下吉田3丁目16-22 カワイビル1F
電話番号:090-1626-5002(代表直通)
営業時間:19:00~24:00
定休日:不定休(スケジュールは公式HPよりご確認ください)

取材|三枝善貴
撮影|杉原悠太
企画|seeder design firm